未来の価値 第52話


その日から、スザクはルルーシュの執務室にも私室にも立ち入ることを禁じられた。騎士であるC.C.がいる以上、スザクが傍に控える事は出来ないし、何よりユーフェミアの騎士となる男が、いつまでもルルーシュの所へ足しげく通うのは問題しかない。
そんなことを言い含められても納得など出来るはずもなく。

「ルルーシュと話をさせてください」

今もどうにか時間を作り、ルルーシュに会ってちゃんと話しあおうと執務室を目指したのだが、警備の者に止められ、ジェレミア達が知らせを受けやってきた。
誰がどう見ても、スザクがここへ来ている理由は明白で、今回の件は、ユーフェミアの独断だったのだと政庁内では皆が噂をしており、無用な争いを避けるためルルーシュが騎士を選んだとも囁かれていた。それが事実だと知っているジェレミア達は困ったように眉を寄せた。

「君の気持は痛いほどわかるが、ユーフェミア皇女殿下に騎士にと望まれた以上、君にはもう選択の余地は無い。残念だが、ルルーシュ様のお傍に枢木が行く事はもう・・・」
「僕はあの話を了承していません」
「わかっている。だが、非常に残念な事だが、君には選択権がない」

皆が同じことを口にする。
スザクは、誰の目にも解るほどその表情を怒りで歪めた。
この少年が、ルルーシュと非常に親しく、能力も秀でており、性格にも問題なく、既にルルーシュの騎士であると言ってもおかしくない状況だった事は誰もが理解していた。
イレブンが皇族であるルルーシュ様に慣れ慣れしいと言っていた者たちでさえ、今回の件は流石におかしいと同情の眼差しを向けてくるほどだ。ルルーシュがすぐに自分の騎士候補だと言えば、スザクの望みどおりの結果となっただろう。だが、ルルーシュは即座にスザクの逃げ道をふさぐ方法を取ってしまった。叙任式こそまだだが、C.C.と呼ばれる女性を「私の騎士だ」と公表したのだ。
これには、ジェレミア達だけではなく、クロヴィスも驚きを隠せなかった。スザクがルルーシュを主にと望み、ルルーシュにもスザクは必要だと理解していたからこそ、今回のユーフェミアの件をどうにか無かったこととし、スザクを正式にルルーシュの騎士にするため動こうと思っていたのだ。コーネリアもユーフェミアの騎士にナンバーズなどあり得ないと激昂しており、スザクにとってはとてもいい状況となっていたというのに、だ。
クロヴィスは、ルルーシュの決断を知った時、頭を抱えた。
ユーフェミアと争わないために、そしてスザクのために、ルルーシュの騎士になるという選択肢を消し去ったのだ。クロヴィス達が動く前に、先手を打ったのだ。
スザクは可哀そうだが、ユーフェミアは悪い子ではない。ルルーシュとは違い地位も安定しているし、そのバッグも強力だ。今後の事を考えれば、悪い話ではない。むしろ、いつ転落するかわからないルルーシュの騎士となるより、安定しているユーフェミアの方がスザクのためではある。
説得しても、ユーフェミアが意思を曲げるかどうかも問題だった。それが、誰の目から見ても悪と呼べる、モラルに欠けた内容ならば、ごめんなさいと即座に反省し、訂正するだろう。だが、今回の件はそうではない。確かに順序は間違えてしまったが、ユーフェミアとスザクの関係は悪いとは言えず、共に食事をした経緯から考えても、むしろ良好だったといえる。
そして、ユーフェミアは幾度となく特派とルルーシュの執務室にいるスザクの元を訪れ、交友関係を深めていた。周りから見れば、騎士の話の有無はともかく、あからさまなアプローチがユーフェミアの方から確かにあったのだ。
そして、運の悪いことに、彼女の耳にはスザクがルルーシュの騎士を望んでいる話が入っていなかった。ルルーシュとスザクはとても仲の良い友人で幼馴染なのだとしか思っていないのだ。
これは、ユーフェミアの側近が意図的に伝えていなかったわけではなく、すでに知っている事だと考え、皇族の騎士の話に触れなかっただけに過ぎない。
だから、現在フリーとは言い難いが、誰かの騎士になる予定の無いスザクとは親しい関係を築けているし、嫌われていない、むしろ好感をもたれていると自覚しているから、騎士の話をスザクが断るとは思っていない。今まで自分の言動を、好意を否定された事の無いユーフェミアには、拒否されるという選択肢がそもそもないのだ。
ルルーシュが動くなら、クロヴィス達は全力でユーフェミアの説得に当たっただろう。このような手段は間違っているのだと、スザクはルルーシュの騎士になるのだと説き伏せただろう。だが、ルルーシュが別の騎士を選んでしまった以上、スザクをユーフェミアから引き離す理由が失われてしまった。
だからもう、動けない。
スザク自身が動き、彼女に今回の件から確実に手を引かせるとなれば、ある意味熱烈な愛の告白であった騎士宣言を断るという、ユーフェミアの心を確実に傷つける方法を取ることになってしまう。
その結果がどうなるかは解らないが、解っている事はユーフェミアが傷つくという事。妹を傷つけたとして、自分もスザクの騎士の話は拒絶しているくせに、コーネリアがスザクに攻撃を始めるだろう、という事だけだ。
ユーフェミアではなくルルーシュを選んだという理由で。
ユーフェミアの清らかな心を傷つけたという理由で。
ユーフェミアを、たぶらかしたという理由で。
それに、他の皇族達が乗ってくる可能性もまた高い。
間違いなく、スザクの立場は悪くなる。
当然、ルルーシュも。

全てを円満に終わらせるには、やはりスザクはユーフェミアの騎士となる道が最良なのだ。スザク自身の気持ちは無視して。

「僕はこんな結果、認めません」
「だろうな。だが、何度も言うが君に選択権は無い。ルルーシュ様は、既に結論を出してしまわれた」

ルルーシュがこの件を良しとしなければと、ジェレミアは心の底から残念そうに言った。もしそうなら、クロヴィスが動き、前回の学園問題で思う所のあるシュナイゼルも動いた可能性がある。そこまで来れば、コーネリアはスザクとルルーシュを悪く扱う事は出来ず、ルルーシュの騎士なのだと、ユーフェミアを説得する側に回っただろう。
あくまでも可能性の話だが、スザクにとっては最高の未来だっただろう。
だが、その道は閉ざされた。

「撤回してもらいます。ユーフェミア様にも」
「止めておくことだ。君の思いを通せば、ユーフェミア様とルルーシュ様が争うことになってしまう。最悪は、回避すべきだ」
「でも、僕には今が一番最悪です。これ以上の最悪なんて」
「違うな、枢木。最悪は、ルルーシュ様の御身に何かある事ではないか?」

その言葉で、スザクの顔色がさっと変わった。

「争いは、それだけ身の危険が増えるという事だ。わかるな?」

スザクがここで拒絶を示せば、友好的だったリ家が敵に回る。
ジェレミアはスザクに対し、脅しをかけているわけではない。
リ家に忠誠を誓っているものが、ユーフェミア様の顔に泥を塗られたと、ルルーシュに牙を向く可能性は高いとみていい。それでなくても母を暗殺され、ナナリーも戦時中に死亡している。庶民の出だというだけで、その命を軽んじられているヴィ家の最後の一人。だから、他の皇族に対し牙を向けるよりも、ずっと容易い存在なのだ。
シュナイゼル、コーネリア、クロヴィス、そしてルルーシュという4人の皇族が足並みそろえてが動かなければ、この危険を回避する事は出来ないが、もうその選択は無い。
ルルーシュを護りたいというならば、ユーフェミアの騎士となる事。
そして、ユーフェミアとルルーシュの親交が今まで以上に厚くなるようにし、リ家の関係者がルルーシュに牙を向かないようにすること。

「枢木スザク。イレブンであり一兵卒にすぎない君に選択する権利は無い。ルルーシュ様を思うなら、君が進むべき道は一つだけだ」

ジェレミアの顔は、まるで我が事のように悔しげに歪んでいた。



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結局本編通りユフィの騎士ルートへ。

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